「これに合う電球ありませんかねえ」
また明け方のことだ。先週を思い出す。雨の中微妙にデカいスタンドライトを、コンセントを垂らしながら、別のお婆が持ってきた。この世はおじさんとおばさんとお爺さんとお婆さんと翁と媼でできている。
4時だぞ。寝てろって。眠気と疲労のピークだった。正直そんなん知らんかった。電球は取り揃ってたけど、お手持ちのそれに合うかはそれ次第だし、しかもここで付けていくという。電球を。目の前でライトに噛み合わず、激昂の最中クーリングオフとか、想像するだけでしんどい。
しかし、低下した判断力が「いけるっしょ」と踏んで、中身はなんじゃろなな箱を提案した。何かの意地も発動していた。購入された電球の箱を開け、「じゃちょっとこちらで点けてみましょうかね〜」と深夜テンションで電気屋ぶって、店頭のコンセントに挿入すると……
煌々と光る白熱。
苦節10分。謎の感動が、私とお婆を包み込んだ。
「すいません、いーすか」
気づけばお婆の背後に別の客。なんで雨の深夜にこんなに客が来るんだ、まあでも気持ちが微塵もわからんことはない、と思いながら(低下した判断力でそんなに思えるわけないだろ。嗚呼、じゃあ今私は、話を、盛っているのかもしれない。)お婆は目を細めペコペコしながら店を去っていった。
それから数十分後。戻ってくるお婆。手元には、ラッピングされた謎の物体が。
「ありがとうございました。母も喜んでまして。それでねえ、これ」
嘘みたいに真っ赤な包装。恩返し、という奴だろうか。アー! イエイエーヨカッタデスー、アリガトウゴザイマスー、条件反射のような返しで、そいつを受け取った。
記事にできると判断した、数刻のふれあいだった。
恩返しの揺り戻しなのか、帰路の降雨は凄まじかった。悠々と自転車で来たから、粛々と自転車で戻らねばならない。1分も経たずに上も下も身体に張り付いて、足元は冷え、胸元は嫌いなぬるさを提供してきた。
ブレーキを鳴らしながら帰宅して、ぱっぱとシャワーでも浴びちまおうとドアを開けると、子供が先に幸せそうに、浴室を光らせている。ひともじ一文字に濁点をつけて項垂れて、私は濡れ衣を脱ぎ捨ると惰眠を優先した。
ラッピング。中身はダイソーの多機能ボールペンでした。
道端でぐしゃぐしゃになった1000円も拾ったし、よしとしておくか。
無事起きて、近所の投票所に向かいますと、受付の若者に止められました。「確認しますので少々お待ちください」、何を確認することがあろうか。どこからどう見てもさくらばだろお!?
違うんですよさくらばさん、と。お調べしたところ、と。住民票移動を役所で申請した日がちょっと遅かったみたいで、今回の投票の対象者じゃなかったそうです。
あんだけ選挙行けとか言ったのに、自分が有権者じゃありませんでした…………俺は、弱い……