夏の夜の大悪夢 〜小田急線への風評被害〜
お久しぶりです。さくらばです。
今朝の悪夢の共有をさせてください。
中高時代、私は小田急線ヘビーユーザーでして。いつもリーマンに押し潰されながら登校したものでした。
今回の夢の舞台はその小田急線。とっくに卒業したさくらばは、再びその小田急線の先頭車両に乗っておりました。
ふらふら〜っと降りて、ホームにへたり込んでしまうさくらば。慢性的な睡眠不足は今も昔も夢の中でも同じです。
低い視点でホームを見回すと……「あれ? やけにホーム小さいな……」
俺が降りたかったのはたしか……
そこに響くアナウンス、「代々木八幡〜。代々木八幡〜……。」
そうだ。俺は次の駅、代々木上原で降りたかったんだ。
急いで乗っていた各駅停車に這い戻りますが、電車の野郎、数分は開けていたろうに俺が乗ろうとした途端ドアを閉めやがる。私は運転主席を睨みつけながらドアにへばりつき、夢特有の謎の力でドアを開けさせます。現実では絶対にやめましょう。
代々木八幡-代々木上原間なんて目と鼻の先。また寝落ちしないようにしなければ、とドア付近の手すりにしがみついていました。緩やかなカーブを曲がり、運転手席越しに代々木上原が見えた、そのとき。
足元からゴトンと嫌な音、大きく傾く車体、近づく地面。
天下の小田急線は、線路上に置かれた小石によって、脱線したのでした。
次に目を開くと、私は車両から投げ出され、線路の上をなだらかに飛んでいました。助かったのかと思ったのも束の間、高度が下がり体勢がどんどん腹ばいになり、線路に頭から突っ込んでいく格好に。
そして顎の向こうには、先ほどまで乗っていた、横転しつつある長い車両の迫り来る気配がありました。
うわ終わった俺の人生終わった痛い痛い痛いバキバキっていく上から小田急線に潰されてグシャってなるバイバイバイバイバイバイバイバイバイバイ
意識は、あった。
意識はあるが、視界が明るむことはなく、頭が上を向いてるのか下を向いてるのか、はたまたちゃんと首についているかもわからない。
即死、刹那で死ぬとはいえ、その刹那に大激痛を知覚するとは思っていたから、まったくの無痛だったのは正直拍子抜けだ。
だがまああれは、死んだよな。確実に。
あの高さから線路に頭から突っ込んで、後続の車両が自分ごと地面を薙いでいったんだぞ。生存できるわきゃあない。
つまりこの闇は、死後の世界だ。
しだいに肉体の感覚が戻ってきて(死んだが)、自身が横向きに伏せていることがわかった。死んだんならようし、と、あの事故現場の上空映像や、代々木八幡と代々木上原の住民へのインタビュー、葬儀が執り行われている様子など、死者権限で見に行ってやろうと思ったのに、魂が死体に癒着していて動けない。私には死んだあとすぐに成仏せずに、現場やニュース、周囲の人間が私についてどんなことを言って回っているのかを一通り見てやりたい、という願望があるのだが、本当に死んだのにそれは叶わず、生前と同じように空想するしかなかった。闇の中で、ぼんやりとした虚構速報が流れる。葬式はどこで開いてほしいかを決めてなかったし誰にも伝えてなかったから、結局東京で、他の犠牲者と半分合同で開かれ、知り合いは大体参列してくれていた。だがこれも虚構だと思うと、まあ悲しくなってしまうな。
伸びた左手には、スマホが握られていた。ようやく気づいた。あんな事故で無事であるはずないのだが、なぜだか一切画面も割れずに点いている。
そうか。これは生者の世界にメッセージを遺せるアイテム、みたいなやつか。
なんだか眠たくなってきた。死んでいるのだ、腕はそりゃあうまく動かない。けれどこんな機会みすみす逃してたまるものか。LINEを開いた。いざ死んだ局面になると、誰に何を送るべきかわからなくなる。「小田急線に気をつけろ」か? 否、事故はもう起こってしまったのだから、書いていなかった遺言か。誰に送ろうか。どうせ最期なら全体メッセージで大々的に送ってやろうか。「まったく いい人生だった」と、これまた虚構の遺言を。
固い、灰色。
眠気に勝てなかった死者は、気づくと目が開くようになっていました。
成仏したか。早いな。未練がないわけないんだけど。……視界が固い灰色の世界が天国である訳ないか。でも地獄の割には暑くないな。
一体なんだここは……
ここは……
駐車場?
生きてる。俺はまだ生きているぞ!
今度は全身が痛みます。生きるとは痛く苦しいものです。それでもまだまだ生きるため、痛む身体を奮い起こして立ち上がって、足元を見ると、尾てい骨から血が流れ、駐車場の地面に、まさしく尾のような紅の曲線を描いていたのでした。
「ああ、流石に重症なのね」
出血を見て再び倒れ込むとともに、遠くで人の気配がしました。助けを求めなければ。声を張る力はないので、可能な限り上半身をじたばたさせます。
「きゅう、救急車、救急車を呼んでください」
「どうしました、大丈夫ですか」
「あの、小田急線の事故の……」
「小田急線の!?!?」
どうやら今は事故が世間に周知された時間軸のようです。私にいち早く気づき駆け寄ってくれた男性は、心底驚き目をかっぴらいていました。「やだー」と気持ち悪がり離れる女もいました。奇跡的に一瞬立てただけ、見た目は電車に潰されただけあって酷いものだったのかもしれません。だんだん人が集まってきて、見せ物になっている時間はとても長く感じましたが、今思うとそうでもなかったのかもしれません。野次馬を退けようやく到着した救急隊に支えられ、救急車に乗るぞ、というところで、
また意識が途切れました。
次に目を覚ますと、私は揺れる座席にいました。身体に傷はなく、普段の倦怠感があるだけでした。
「おう、ようやく起きたか」左から覚えのある声がしまして、向くと隣には友人が座っていました。
「お前、自殺しやがって、くそぉと思ってたぜ」
本当に事故だったんだよ? でも申し訳ねえなあ。
どうやら治療期間の記憶を吹っ飛ばして、退院後の世界線のようでした。
それにしても、今これはどういう状況だい?
「ああ、今は中央線で荻窪に向かっていまあす」
いや電車で大事故に巻き込まれた人間をすぐ電車に乗せるな〜〜〜!!!!!☝️☝️☝️
悪夢、完。
2時前からのレム睡眠で、起きたら4時でした。まだ真っ暗で、日が短くなってきたなあと寂しくなりますね。夢で血の尾っぽを作っていた尾てい骨は、現実でも痛かった。
夢の世界って、現実世界で構成されているという現実。自分が経験したことしか出てこないという事実。それを今になって、冷静に実感します。
死にそうになる夢を見ることは多いけど、死ぬ瞬間は味わえない。だって死んだ経験がないから。ジェットコースターでの光景や水中の記憶をこねくり回して、落ちていく夢や溺れて沈んでいく夢は見られるけど、死ぬ瞬間の記憶なんてそりゃあないから、そこの夢は作れないで、目を覚ましたりまったく別の夢に移ったりする。だから頭から落下した代々木上原前の線路も、見覚えのある複々線化する前のものでした。担架と救急車に乗せられた経験がある人はそれが夢に出てくるでしょうけど、私にはそれもないので、ちょうど救急車がきたところで夢が切り替わったんですよね。担架の代わりに肩貸されましたからね重傷者だっつってんのに。
自分の世界を広げることがなければ、夢も一生今の範囲のものしか見られません。あなたも夏の夜の夢のためにも、安寧の世界を少し抜け出してみませんか。ええ強引な宗教勧誘?
数ヶ月ぶりの超唐突な更新でしたね。こんにちは〜。これからもこういう動悸がすごいイベントがありましたら、不定期で更新していきます。